DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?|デジタルガバナンス・コード2.0実践の手引き解説

武田 知也

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

最近「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉がよく耳に入るようになりました。多くの人がDXの必要性に気づいていますが、具体的な意味やIT化との違いについてはまだよく理解していないかもしれません。
DXとは単なる「デジタル化」による技術革新だけにとどまらず、企業のビジネスモデルや働き方を根本から変える概念です。

今回のコラムでは、DXがどのようなものであるか、その必要性や実践方法について、わかりやすく解説していきます。

DXが目指すのはデジタル化だけではない?

経済産業省が経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄をまとめた「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、DXを以下のように定義しています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧 DX推進ガイドライン)」(2020)

デジタル技術の急速な進化は、今まで想像もしなかったような新しい価値を次々と生み出し続けています。企業においても生産効率の向上やコストの削減といった従来のデジタル技術だけでなく、情報や人、もの、体験がITによって繋がることで新たなビジネスモデルが誕生し、産業だけでなく個人のライフスタイルにまで大きな変化をもたらしています。

DXは、この激しい時代の変革に適応し、企業が競争に勝つために早急に取り組む必要があります。

DXの必要性「2025年の崖」

「2025年の崖」という言葉は、経済産業省が提唱した日本におけるDXの緊急性を象徴する用語です。2025年までにDXを適切に実施しない場合、多くの日本企業が国際競争力を失い、経済全体が大きな損失を被る可能性があると警告しています。

この問題について、主に以下の点について言及しています。

・レガシーシステムのブラックボックス化問題
多くの企業では、古い情報システム(レガシーシステム)がまだ広く使用されており、また老朽化したITシステムがブラックボックス化しているため、これらが新しいデジタル技術との互換性問題を引き起こし、イノベーションを妨げている。

・デジタル人材の不足
デジタル技術を効果的に活用し、変革を行うために必要な人材が不足している。また保守運用の人材も不足し、サイバーセキュリティ等のリスクの高まりも指摘されている。

・DX経営戦略が不明確
DX経営戦略の重要性は理解していても、蓄積されたデータの活用方法や、DXを実現するための具体的な方法については不明解な企業が多い。

・システム維持の高騰化
既存のITシステムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上になることが指摘されている。これは短期的な観点のシステム開発を優先させた結果、長期的な運用費が高騰することによる技術的負債も影響している。

引用:経済産業省「DXレポート」
「2025年の崖」は、日本企業にとって、ただ危機ではなく、デジタル化を通じて新たな価値を生み出し、グローバル競争に勝つための重要な機会です。持続可能な成長と社会全体の繁栄を実現するためには、この変革に積極的に取り組むことが求められています。

DX取り組み例の紹介

デジタルガバナンス・コード2.0実践の手引きに紹介されている実際の企業の取組例を見ていきましょう。

引用:デジタルガバナンス・コード2.0実践の手引き

有限会社ゑびや・株式会社EBILAB

創業約150年の老舗が、「世界一IT化された食堂」に

伊勢神宮の近くにある、約150年歴史を持つ老舗飲食店ゑびやは、毎日の売上管理は手切りの食券と手書きの記帳、 計算はそろばんという状況でデータ活用や DX とはほど遠く、またグルメサイトでの評価も 2.86 と低評価でした。
しかし「経営者が儲かるために当たり前のことをすればもっと儲かることができるはず」という社長の思いと一台のPCからデータ活用による経営改革の取組を推進し、7年後には売り上げが5倍、利益は50倍となり「世界一IT化された食堂」と呼ばれるになりました。

ゑびやが行った取り組みは「生産性の向上」でした。そのために必要な要素を分解し、
・付加価値向上
・新規ビジネスモデル開発
・従業員労働時間のコスト削減(効率向上)

といった課題に取り組んでいきます。そしてまず自社の状況を正確に把握するために、当時紙や口頭といったアナログ作業を、エクセルデータとして記録するところから始めました。

少しづつ項目を増やしデータを蓄積した結果、今までの勘と経験の商いから、データに基づく店舗運営に置き換えていきます。もちろん、一足飛びに経営が好転したのではなく、得られたデータの分析・整理を行いながら模索し続け、数年をかけてゑびやの取り組みは進化していきました。

その後社長は、新規ビジネスモデル検討や付加価値向上といった経営業務に集中するため、経理や労務管理といったバックオフィス業務を外注します。その結果、提供メニューやブランディングを見直し、客単価の向上、新規の屋台営業、来客数AI予想ツールなど次々と改善を行うことができ、さらには自社のために開発したデジタルツールを他社へ提供するという、新規事業の創出にまで繋がりました。

勘と経験に頼った従来のやり方を踏襲するのではなく、データを活用することで新たなビジネスモデルをつくり、付加価値と効率を高めていくこと、そして経営者が取り組むべきこれらの課題解決に取り組むこと。「当たり前」のことの試行錯誤を繰り返し、模索を続けていく重要性・有用性がわかる事例ではないでしょうか。

マツモトプレシジョン株式会社

「デジタル or ダイ」の衝撃

1948年創業福島県喜多方市の精密機械部品メーカーのマツモトプレシジョン株式会社の現社長が、2017年に就任した際に、すぐに経営課題として感じたのは、150名の従業員は残業・休日出勤までして働くも、なぜか儲からず十分な給与を支払えていないということでした。そのための課題として、従業員の給与を3%向上するため、生産性を130%に高める必要があると考えます。そして、その達成を通じて、地域・顧客・従業員から選ばれる会社になることを目標にしました。

目標実現に向けて漠然と危機感を抱いていた社長は、とある講演をきっかけに、「2025 年の崖」、デジタル or ダイといった強烈な言葉を知り、さらに強い危機感を持ちます。それが社長のDXに向けた意識改革のきっかけとなりました。
社長は、この講演から3年程度の準備を経て、組織の変革の準備に取り組むとともに、同社の営業利益から成長に向けた IT投資に捻出できる金額を算出し、15%程度という大きな金額を投じて抜本的な変革に取り掛かることを決断するに至りました。

創業70年以上の老舗に芽生えた「変わっていいのだ」という意識

当然ながらきっかけと決断があれば一足飛びにDXが進むわけではありません。創業70年を超える同社においては、それぞれの部門ごとに、これまでの仕事のやり方が確立されており、中にはやり方を変えるのをためらう人も出てきます。そこで社長は自らが知識をつけ、自身の言葉でビジョンとDX推進の必要性を説き、徐々に老舗企業の社内に「変わっていいのだ」という雰囲気を浸透させていきました。

「CMEs」導入による業務プロセスの見直し

長年の業務を支えた基幹システムを刷新するということは、業務のあり方を見直すことでした。
自社の業務プロセスに基づくこれまでのシステムではなく、既製品のCMEsを導入したことにより、CMEsに合わせる形で業務プロセスの見直しが必要となりました。このプロセス見直しの過程で、今まで気づかなかった無駄な業務や、無理な計画等が明らかになります。

また、各部門がつながったことにより、正しいデータを流さなければいけないという意識が生まれ、各部署が自分のことのみを考えていた状態から、「正しいデータ」を集める全体の意識が醸成されるなど、企業文化の変革にも効果が出始めてます。

デジタルガバナンス・コード2.0実践の手引きには、有限会社ゑびや、マツモトプレシジョン株式会社のもっと詳しいストーリーや、そのほかの会社のDX推進事例が多く掲載されています。
ご興味のある方は一度目を通してみてはいかがでしょうか?

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